【R18】 Begin Again【安室透/降谷零】
第51章 優しい彗星
安室side
夢を見た。
リラと2人で星を見上げたあの日の夢を。
600年後も一緒にいよう。なんて、守れない約束をしたあの日。
リラは嬉しそうに僕の隣で笑っている。
「ねぇ、零」
「ん?」
リラは僕の名前を呼んだあと、そのまっすぐな瞳で僕の目を覗きながら単調に聞いた。
「うそつき」
ハッと目を覚ますと、無機質な蛍光灯が光る天井が目に飛び込んで来た。
「…夢…」
こんな悪夢を見るのは、警察庁の執務スペースのソファーで仮眠を取ったせいだ…
と、明らかに自業自得なのは分かっているけれど、何かのせいにしないと気が狂いそうだった。
リラと別れてから1ヶ月が目まぐるしく過ぎ去った。
あの、涙の音楽番組を最後にリラはテレビで姿を見せなくなった。
1ヶ月前までは放映していたCMも、不自然なぐらい流れない。
今、果たして元気で笑っているのか?すら、今の僕にはわからない。
正直、芸能人だから別れても大好きなリラの姿はいつでも見ることができる。
なんて、ずるいことを考えていたけれど、そんな思考を見透かすかのようにリラは表舞台から姿を消した。
このまま、僕にとってリラは幻の存在になって行くんだろうか…
それとも、リラが表舞台から姿を消したのは、何もかも捨てて僕のところへ来てくれるから…?
そんなのフェアじゃない。
そう言ってリラとの別れを選んだくせに、いざそう考えると、心の中で喜んでしまっている自分がいる。
「結局、別れてもリラのことばかりだな…」
そうぽつりと呟いたとき、執務スペースに誰かが入って来た。
「あれ?降谷」
「お疲れ様です」
見ると僕の先輩刑事が出勤して来たところだった。
「お前、今日非番だろ?」
「えぇ。公安は非番です」
「公安は。って…
何足草鞋履いてんだよ、お前。
そのうちぶっ倒れるぞ」
今日は公安は非番だが、昼からはポアロの日。
相変わらず休む暇もなく働く僕を、先輩刑事は呆れ顔で笑った。
「仕事しかありませんから。僕には。」
そう言い残し、僕は警察庁から帰路に着いた。