【R18】 Begin Again【安室透/降谷零】
第50章 Last Kiss
「会ったら、離したくなくなるからに決まってるじゃないですか…」
「…っ…」
「降谷さんはここ数週間、ずっと悩んでました。
あんなに何かに悩む降谷さんは、初めて見るぐらい…
リラさんのこと、大切に想っているからこそ、降谷さんはここに来ないんです!」
「…っ…それでもわたしは…」
「降谷さんは、リラさんの歌が心の底から好きだと言ってました。
自分の幸せよりも、きっとリラさんの夢を大事にしたいと思ったはずです。
…降谷さんの想い、無駄にしないでください。
…失礼します」
それだけ言い残し、風見さんは玄関を出て行った。
わたしはまたその場に座り込んだ。
玄関の片隅で床に座り込み、膝におでこをつけてひたすらに泣いた。
泣きながら、零と初めて会った日のことを思い出した。
零はいつも優しかった。
歩くときは必ず車道側を歩いてくれる。
車に乗り込む時に、ドアを開けて微笑んでくれる。
零が頭を撫でてくれると、ドキドキすると同時にどこか安心した。
わたしが歌うスタンドバイミーを聴いて、涙を流した零を見て、この人のことが知りたいと思った。
いつの間にか、自分の気持ちが追いつくよりももっと速いスピードで、零のこと大好きになって…
それからずっと、その好きな気持ちは毎日毎日膨らんで、今だって少しも減ってない。
けれど
いつの日か、思ったことがある。
わたしと零が出会って、こうして2人で時間を過ごしているのは奇跡なんだと。
そんな奇跡は、わたしの手のひらから虚しくこぼれ落ちた。
もう奇跡は起きない。
零は戻ってこない。
わたしたちの道は、奇跡が起きて一瞬交差しただけで、今また過ぎ去って道が別れ始めた。
わたしに残ったのは、結局この神様がくれた歌声と、零の方が大好きだという気持ちだけ。
涙を拭ったわたしは、徐に立ち上がり、ギターケースからギターを取り出した。
ねぇ、零
もしもわたしが歌手じゃなければ
もしも零が警察官じゃなければ
わたしたちは同じ道を歩めたのかな
*
*