【R18】 Begin Again【安室透/降谷零】
第37章 ずるい
零の車が走り去っていくのを見ると、涙がぼろぼろと溢れた。
零にこんな風に冷たくされるのは思えば初めてだ。
初めて会った時から今まで、零はいっつも優しかった。
優しすぎるぐらい、優しかった。
わたしのこと、ずっと大切にしてくれたのに、わたしはそんな大切な零の歌を、他の人に歌わせた。
零が怒るのも無理はない。
けれどこれがわたしの仕事だ。
仕事か、零か選ぶ時が来たの?
零とずっと一緒にいたいなら、仕事を捨てなきゃいけない?
逆にこの仕事を続ける限り、零に毎回こんな思いをさせてしまうの?
その2択がわたしをがんじがらめにする。
歌ってる君が好きだって言う零の言葉に、わたしはずっと甘えていたのかもしれない。
ねえ零。
そんな風に、わたしから距離を取らないでよ…
いつもみたいに、抱きしめて話を聞いて欲しい。
ごめんねって謝らせて欲しい。
わたしが好きなのは、零だけなのに。
零を大切に出来てなかった?
その答えが、きっと零がさっき頬にくれたキスなんだろう。
唇じゃなくて頬だったのが、零がどれほど怒っているか伝わる。
もう2度と、キスしてくれなくなったらどうしよう。
そう思うと不安で仕方なくて、わたしはぐずぐずと鼻を啜りながら泣いた。
こんなに泣いたのは、歌えなくなったあの日以来のことだった。
あの時は零が涙を拭いてくれたけど、今は自分の袖で拭うしかなかったんだ。
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