【R18】 Begin Again【安室透/降谷零】
第37章 ずるい
ヘッドフォンに手を当てながら、もう片方の手でリズムを刻み、なんとか最後まで歌い切ったものの、やはりあのピッチのズレは健在らしい。
「どうしてあそこだけズレるんだろう…」
僕から見てもわかる。
頑固なリラは、かなり意固地になっているようだ。
周りのスタッフも、少しだけ呆れたようにため息を漏らした。
そして、隣で黙って見ていた藤亜蘭は、ハアッとため息を吐いた。
「こんな録り方してたら、喉潰すぞ。
そんな良い声を酷使して、もったいない」
そう言うと、スッとディレクターの隣に立ち、マイクのスイッチを入れながらブース内のリラに話しかけた。
「休憩だ。お前、一旦ブースから出ろ」
「…やです。
もう一回だけ…」
そう言って動こうとしないリラに、藤亜蘭は苛ついたように舌打ちをした。
そして、強引にレコーディングブースの防音扉を開けると、マイク前に立つリラの腕を引っ張り、ブースから外に連れ出した。
そしてその様子を、僕はただ見ていることしか出来ない。
藤亜蘭に腕を引っ張られて連れ出されたリラは、掴まれた腕を振り解きながら言う。
「待って!まだ歌えます!」
「このバカ!
こんな録り方続けてると、いつか喉潰すぞ」
「でもっ…!」