【R18】 Begin Again【安室透/降谷零】
第36章 ドS男の過去 ☆
「悪い。遅くなった」
「…じゃあ、私はこれで。
藤、終わったら連絡ちょうだい。
車で送るから。」
「いや、俺今日自分の車だから。
打ち合わせ終わったら、この女を家まで送ってそのまま帰宅するよ。」
そんな業務連絡を交わした後、藤さんのマネージャーは会議室を後にした。
シン…と静まり返った会議室。
藤さんはガタッと乱暴に席についた。
「これ、藤さんのソロ曲完成したので持ってきました」
そう言って、わたしはノートPCを取り出し、作りたての楽曲をDTMから流した。
再生ボタンを押すと、わたしが入れた仮歌が流れる。
あの日、零と一緒に星を見た日に零のことを思って作った曲。
本当は自分の歌声でリリースしたいぐらいだけど、さっきのマネージャーさんの話を聞いて思った。
この楽曲を通して、藤さんに恋や愛の存在をもう一度信じてほしいと強く思った。
「結局、ラブソングか」
藤さんは眉を顰めてその曲を聴いた。
「藤さんは、愛を歌うなんてくだらないって言うかもしれないけれど、
今回のコラボのテーマは成長です。
藤さんの作ったわたしのソロ曲、正直わたしが今まで歌ってきた歌の中で一番難しい。
わたしは、藤さんの技術を成長させる歌は作れない。
だったらわたしは、藤さんが嫌いだと勘違いしている歌を歌わせようと思いました。」
「勘違い…?」
「はい。
だって、愛なんてくだらないって言ってるけど、藤さんが音楽に対する気持ちって間違いなく愛だから。」
「…くだらない」
フ…とクールに笑った藤さんは、それ以上何も言わずにその音楽データと歌詞を受け取った。