【R18】 Begin Again【安室透/降谷零】
第28章 苦しみのその先に
零にしては珍しく慌ててブレーキを踏んだ様子で、わたしは焦って思わず彼を見た。
「零?どうしたの?何か忘れ物でも思い出した?」
そう言うわたしを、零は目を丸くして見てくる。
「リラ…今の歌…」
「?ああ、きらきら星?
母がよく子守唄で歌ってくれたの思い出しちゃって」
「…そうじゃなくて、リラ…
今、歌ってたよ」
「え…」
歌ってたよ
零に言われるまで、全く気付かなかった。
何なら、忘れてた。
わたしが歌えなくなっていたことを。
そのぐらい、ごくごく自然にメロディをハミングしていたから。
試しにもう一度、きらきら星を歌ってみた。
今度は歌詞付きで。
「〜〜♪…ほんとだ…嘘…歌える」
奇跡みたいなこの瞬間に、わたしは思わず声が震えた。
歌声が戻った…?
「リラ…!」
わたしよりも、零が泣きそうな顔になってわたしを力一杯抱きしめた。
また歌えるようになったんだ…
夢じゃない…
わたしの歌声が、帰ってきた瞬間だった。