【R18】 Begin Again【安室透/降谷零】
第28章 苦しみのその先に
母の帰国の日がやって来た。
わたしは零のRX-7に乗せてもらい、零と一緒に成田まで母の出発を見送りに来ている。
保安検査場の前でサングラスを外した母は、わたしたちを見て微笑みながら言った。
「じゃあ、行くわね。
ロンドンに着いたら連絡するから。」
「うん。…お母さん」
「なに?」
きっと仕事がたくさん残っているんだろう。
飛行機の離陸の時間は変わらないのに早々に立ち去ろうとするせっかちな母を呼び止めて、わたしは本音をこぼした。
「これまで、上手に甘えられなくって、ごめんね。
…わたし、お母さんとお兄ちゃんと家族になれて良かったよ。
血の繋がっていないわたしを、大切に育ててくれて本当にありがとうございました。」
そう言って頭を下げると、母はわたしの肩に手を添え、わたしの顔を上げると頬を撫でた。
「…あなたは、私の可愛い娘よ。
これからも、この先もずっと。
…落ち着いたら、降谷さんと遊びに来なさいよ」
「お母さん…」
「まあ、お兄ちゃんにとっては、ただの可愛い妹ってわけにはいかなかったみたいだけど?」
「…ん?どう言う意味?」
お母さんの意味深な発言の意図がわからず首を傾げていると、零が慌てて割って入り、母に言う。
「あ!保安検査場、混み出しましたよ!」
「あらほんと。
じゃあ、行くわね?
降谷さん。娘を、よろしく頼みますね」
「もちろんです」
零がそう言って笑うと、母も安心したように笑い、ロングコートを翻して颯爽とその場を後にした。