【R18】 Begin Again【安室透/降谷零】
第22章 風邪引き彼女と過保護な彼氏
イギリスに住む母には、風邪の時看病してもらったことは一度もない。
芸能人になってから、風邪を引いたのは数えるほどだ。
38.7度も出たのは初めてかもしれない。
零という存在に気が緩んでる証拠だろうか?
零と付き合うまでは、どこかずっと張り詰めた生活をしていた気がする。
少しでも気を抜いたら、飽きられるんじゃないか。
音楽チャートが、明日にはランキングが下がってるんじゃないか。
歌が全てだったわたしは、ずっと強い自分を演じてきた。
零に出会って、零を好きになって、歌と同じぐらい零が大切になった。
そして、零の前では、弱いところを見せられるようになった。
たぶん今日風邪をひいたのは、その緩みが原因だと思う。
ただの女の子らしくなってきたひずみ。
「ねえ、零」
「ん?どうした?」
「呼んだだけ」
「ふ…からかってる?
悪い子だな」
甘えるようにそんな冗談を言うと、零も楽しそうにわたしの身体を抱きしめながら笑う。
零と一緒にいると、幸せすぎて
仕事も恋も、ずっと順調にいくものなんだと信じて疑わなかった。
このままずっと、大好きな歌を大好きな零の隣で歌っていけるのだと当たり前のように思っていた。
まさか自分が、歌えなくなるなんて
まるでおとぎ話の歌姫みたいに声を奪われるなんて
この時は想像すらしていなかったのだから。