【R18】 Begin Again【安室透/降谷零】
第9章 I fancy you
このまま、時間が止まればいいのに…
そう願ったわたしを嘲笑うかのように
呆気なく、朝はやってきた。
「リラ、おはよう」
「おはよ…」
いつもみたいに、朝一番におはようと挨拶をして
いつもみたいに、一緒にわたし用に作られた低糖質の朝ごはんを食べて
いつもみたいに部屋着から着替えて
そして、行ってきますと言ってドアから出掛ける。
このいつもやっていたことが、明日から出来なくなる。
この部屋を出たらもう、安室さんとは他人に戻るんだ…
わたしは今日は歌番組の生放送だ。
リハが朝からあって、一度家に帰っている時間はない。
安室さんが、わたしの荷物を宅配で送ってくれることとなった。
まるで、雲の上を歩いてるみたいにふわふわとする。
脚が微かに震えるのを誤魔化しながら、わたしは玄関に立った。
「…じゃあ、お世話になりました」
「うん。荷物、まとめて自宅に送るから」
安室さんは、相変わらず優しく笑う。
本当にこれで、最後なんだ…
最後なんだ…
悲しいのに、どうして涙は出ないんだろう。
「…リラ?」
なかなか出て行こうとしないわたしを見て、安室さんが心配そうに首をかしげた。
「…いくね。じゃあ、また…どこかで…」
「あぁ。さよなら」
サヨナラ以外の言葉で、どうにか最後にならないように別れの挨拶を言ったわたしに、安室さんは、簡単にサヨナラを言った。
そうだね。
さよならだ…
馬鹿みたいわたし。
すこしでも、引き止めてくれないかななんて思って。
安室さんの部屋のドアをばたりと閉め、わたしは通りでタクシーを捕まえ、局に向かった。
なにか、大きなものを失ったような感覚。
ぽっかりと、心に穴が空いたような、形容し難い気持ちになった。
タクシーのバックミラーに映った自分の顔は、まるでこの世の終わりみたいな顔をしていた。