夢に見た世界【アイドリッシュセブン】【D.Gray-man】
第6章 恋人同士とは番外編3
カエデは、壮五の言葉を待つ。
「・・・・・・恋人、になれば良いって言われたんだ」
その言葉は、とてもとても小さな声で発せられた。
だけど、カエデの耳に届かない程小さくはない。
聞こえなかったフリをしようかとも思った。
だけど壮五の話の本題がその事だ、とはっきり分かるから。
真っ直ぐな目。
逃げたいと思った。
どちらも。
でも逃げてしまうのは違う気がして。
向き合う。
息が止まったような錯覚がした。
惹きつけられる瞳と瞳。
「待って」
カエデの願い。
けれどそのささやかな願いは叶えられない。
「僕はもう、じゅうぶんここで待ったんだよ」
意地悪。
なのにどうしてか心地良い。
口をついて出たセリフは、さっきとは真逆の言葉。
「ねえ、しちゃう?」
手を重ねる。
冷たい。
壮五の手は震えている。
怖い、この感情が、自分だけじゃないのなら――。
目を閉じる。
カエデは。
唇を壮五のマスク越しに合わせた。
それは、カエデが初めて心地良く感じたキスだった。
友達は、いつも長続きしない。
でも今回は、いつも、とは事情が違う。
友達をやめなければいけないのなら。
せめて、最後にとびきりの思い出が欲しい。
恋人には、きっとなれないだろうから。
神様がお赦しにならないだろうから。
壮五は、突然のカエデからのキスに、戸惑いを隠せなかった。
お別れを言われているような気がした。
実際、壮五の勘は当たっている。
カエデは、このキスを最後に、何も言わず壮五の静止も聞かず、お金をテーブルに置いて喫茶店を去り、雨の中へ消えて行った。
そのまま、カエデは壮五とのメッセージアプリで全てをブロックしたのである。
壮五は、再び途方に暮れる事となったのだった。