第2章 宛名のない手紙
孤児院での仕事も年々増えるばかりだった。夏休みなると朝から夕方までミラは働かされ、ハリーと公園で会う機会が中々なかった。食の支度から洗濯、真夏の暑さに耐えながらの草むしりは苦労した。日焼けしないよう、せめてもの抵抗で薄手の長袖を着ても、うっすらと肌には赤みがさしていた。
そんな目まぐるしく、忙しい毎日を送っていたミラの元へ、このあたりでは見かけないエメラルドのマントを羽織り、四角いメガネをかけた厳格そうな女性が孤児院に訪れた。
突然の訪問者、それも少し変な訪問者に、ミス・メアリーは驚いたが、すぐに来訪者向けの顔をし、女性を中へ招いた。孤児院にある応接室へ向かう途中、ミラはその女性の格好を上から下まで見ると、抱えていた洗濯物のカゴを持って中庭の出口へ向かった。
「そこの貴方、えぇ、貴方です、ミス・グローヴァー」
厳格そうな女性に苗字を呼ばれ、ミラは飛び上がって振り返った。
「貴方にも来ていただきたいのです」
その言葉にミラは、女性の奥にいたミス・メアリーの顔を見た。とても来訪者に向ける顔ではなかったが、行かなくてはいけないと分かると、ため息をついて洗濯物のカゴをその場においた。
応接室に着くと、ゆったりとした黒色の艶々したソファーが二つ、テーブルを挟んでいた。奥にミス・メアリーが座り、手前に来訪者の女性が席についた。ミラはどこに座って良いか分からず、入り口の前でまごついていると、猫撫で声のミス・メアリーが隣に座るように言いつけた。
普段聞くことのない声に、ミラはゴリラが歌っているのかと思った。
「ミス・メアリー、お忙しいところ突然の訪問をお許しくださって感謝いたします。私、ホグワーツで教鞭をとっております、マクゴナガルと申します。」
「いえ、滅相もございません、ミス・マクゴナガル…それで、ご用件は?」
「ミス・グローヴァーについてなのですが」
ミラはまた自分の苗字を呼ばれ、ドキリとした。
「彼女にはぜひ私共の学校へ来ていただきたいと思い、本日伺わせていただきました。こちらの手紙を、どうぞ」
マクゴナガルという女性は、マントで見えなかったが、カバンから何かを引っ張り出し、ミラへ差し出した。