第3章 ダイアゴン横丁
ミラは指定された時間の15分前には食堂の暖炉の前をウロウロしていた。約束の時間は朝の6時で、今か今かとミラは待ちきれなかった。
キッチンの方からは時々音が聞こえたが、ミス・メアリーが料理を作っているのである。ミラは手紙が届いたその日、彼女に朝から出かけることを伝えると、苦虫を潰したような顔をした。
さらに驚いたことに、その日は料理をしなくていいと言われ、天変地異が起こるんじゃないかと本気で思った。もちろんミス・メアリーの機嫌はその日からすこぶる良くなかった。他の孤児たちもその様子に気が付いてはいたが、誰もそのことについて触れようとしなかった。
時計の長針がぴったり6時を指すと、食堂の暖炉から突然エメラルドグリーンの炎が上がり、ミラは驚きのあまり、その場で飛び上がった。慌てて食堂のテーブルの影に身を隠すと、その炎から三週間ぶりに見たマクゴナガルが姿を現した。
マクゴナガルは辺りを見回すと、テーブルの後ろからこちらを除いているミラを見つけた。
「さぁさぁ、行きましょう」
マクゴナガルに促されて、ミラはソロリソロリとテーブルから離れた。初めて魔法らしい魔法を見て、どこか少し怖いと思ったが、ワクワクした気持ちの方が大きかった。
「…おはようございます、ミス・マクゴナガル」
「おはようございます、ミス・グローヴァー。さぁ他の子供達に見つかる前に行きましょう」
マクゴナガルはすでに消えたエメラルドグリーンの炎がついた暖炉の中に立った。マントの中から袋を取り出すと、その袋から何かをつかんで出した。まだ暖炉に入っていないミラを自分の隣へ来るよう指示すると、ミラはドキドキしながら暖炉の中に入った。
「これは煙突飛行ネットと言います、今から言うところへ飛びますが、もし恐ければ目を瞑っていて構いませんよ」
「は、はい…」
「それでは---漏れ鍋!」
マクゴナガルがはっきりした発音で言うと、目の前が一瞬で緑色に染まった。瞬きをした瞬間には、孤児院の食堂ではなく、薄暗くてみすぼらしいところが目に写った。