第20章 強化訓練と育手
風音の頬に優しい温かさが広がった。
あまりの心地良さに身動ぎして重い瞼をゆっくり開いていくと、ここに居ないはずの人が瞳に映し出された。
「目、覚めたかよ。お前からじゃなく伊黒から救援要請が届いたんだが……何してんだァ?いつの間に物騒なもん作りやがった」
「実弥君……救援要請って?物騒な物は作った覚えがないんだけど」
夢現な状態で辺りを見回し……飛び起きた。
「実弥君?!どうしてここに?!え……夜?ちょっと待って、私何日寝てたの?!あぁ……やってしまった」
「お前からの手紙が途絶えて二日経ってる。やっと楓が来たと思えば楓じゃなくて夕庵だしよォ……二日経ってもお前が起き上がらねぇってんで、伊黒が慌てて俺に報せ届けたんだよ。つまり今はお前が眠っちまってから三日経過した」
ある程度予測していた事態だが、力の使い過ぎで長期間眠ってしまったことに絶望する。
布団の上で項垂れ落ち込む風音に苦笑いを零し、まだ眠気があるであろう体に腕を添えて横たわらせてやった。
「あんま慌てねぇ伊黒が狼狽してたぞ?手刀を強く入れすぎたのかってなァ。たまにあるんだって言やぁ安心してたが。体は?辛いとこねぇのかよ?」
相変わらず力のことに関しては叱り付けることをしない実弥。
そんな実弥の腕をちょいちょいと引っ張り自分と同じように横になってもらうと、その腕をキュッと握りしめて顔を見上げた。
「まずは実弥君、お手間を掛けさせてしまってごめんなさい。お稽古の途中なのに……伊黒さんには明日の朝一番に謝ります。体は元気だよ。痛くもないし辛くもない。たぶん……先を見る人数が多くて寝ちゃったんだと思う」
シュンと目尻と眉を下げる風音の頭をくしゃりと撫で、そのまま胸元に誘った。
「別に俺も伊黒も手間と思ってねぇよ。むしろ伊黒はお前の薬に感謝してたぞ?あの物騒な薬、剣士たちが気絶すんのを防げるっつってなァ。この三日で使い果たしちまったから、新しいのがあれば譲ってくれってよ」