第16章 里と狼煙
任務や警備の調整を行ってようやく辿り着いた刀鍛冶の里。
目隠しと耳栓を装着し、何人もの隠に代わる代わる背負われ運んでもらい到着した刀鍛冶の里は、風音が想像していた鍛冶屋が所狭しと建ち並ぶ街ではなく、まるで温泉街のような景観の素晴らしい里だった。
しかし風音の気持ちは晴れやかでは無い様子である。
『刀を折ったらタダじゃおかない』
実弥を通して聞いた鋼鐵塚からの言葉が頭の中を永遠と巡っているからだ。
「やっと着いたなァ。……殺されるわけじゃねェんだからそんな悲壮な顔すんな。まずは甘味処寄ってみたらし団子仕入れに行くぞ。その後すぐに里長んとこに挨拶しに行く」
「うん……あんなに見事な刀を折っちゃった罪悪感と、鋼鐵塚さんへの恐怖で押しつぶされそうなだけだよ。みたらし団子……里長への手土産を買っていくの?」
先を歩く実弥の後をトボトボと歩く風音の手を取り、隣りを歩くように促して甘味処へと急ぐ。
「正確にはお前が折ったんじゃねェけど。恐怖に関してはみたらし団子で和らぐ……と思う。里長への手土産ってのもあるが、鋼鐵塚さんの好きなもんがみたらし団子なんだよ。多少は鋼鐵塚さんの沸騰してる血もおさまんじゃねェかなァ?」
こんな場面でも師範は心強い。
流石長年鬼殺隊に属し柱にまで登り詰めた人物である。
そんな頼れる師範の腕にしがみつきながら羽織の袂に手を突っ込み、毎月お小遣いとして実弥から強制的に与えられている金が入った財布を取り出した。
ちなみにお小遣いの使い道が分からないので、取り出した財布はパンパンに膨れ上がっており……下手をすれば二人の数ヶ月分の食材を買い揃えられそうな額が入っている。
「お前、それ持ち歩いてんのかァ?落としたら洒落になんねェだろ……てかどんだけみたらし団子買うつもりだァ?そんな財布出しゃ店のモン驚いちまうぞ」
「いつもはお部屋の箪笥の右上の引き出しの右奥に置いてるよ?刀の修繕にどれだけかかるか分からなかったから、今日は特別に全部持ってきたの。ここでの滞在期間、私が出したいなって思ったのもあって。いつもお世話になってる実弥君に恩返し出来たらなって」