第7章 【第五講 前半】文化祭は何かとトラブルになるけどそれも又青春
長谷川の屋台を離れた○○は、巡回を再開した。
桂に払わせるという目論見は外れたが、あのロン毛が消えてくれたのは幸いだ。
なお、神楽の無銭飲食については本人が応じなかった場合、銀八に払わせるということで結論がついた。
「□□さん!」
名を呼ばれ、○○は視線を向ける。
一人の男子生徒が右手を挙げて呼んでいた。それは風紀委員の後輩だった。
○○が人を避けながら近づくと、彼の傍にはもう一人の風紀委員と、俯いた女子生徒、その横には見知らぬ男子生徒の姿があった。
「お疲れ。何かあったの?」
「はい。彼女の背中に……」
後輩の風紀委員は女子生徒の背後を示した。
○○は女子生徒の背後に回り、その惨状を目にした○○は眉をひそめる。
「これ……インク?」
純白のセーラー服が真っ赤に染められていた。
「講堂から出た時に気がついて……」
女子生徒の横にいた男子が口を開いた。
傍らにいたのは女子生徒の恋人で、彼に指摘されるまでインクをかけられていたことには気がつかなかったという。
講堂を歩いているだけで勝手にインクが付くはずがない。悪意ある誰かによる故意であることは明白。
女子生徒は終始伏し目がちになっている。
楽しみにしていた文化祭をこのような卑劣な行為で潰されるなど言語道断。
生徒を護ることが風紀委員の務め。
○○の中にはまだ見ぬ悪漢に対する嫌悪が渦巻く。
「近藤さんに報告は?」
まだです、と、後輩の風紀委員は答える。
「ごめんね。一緒に来てもらえるかな?」
女子生徒は小さく頷いた。
○○は女子生徒を後輩達に預け、自身は講堂へと向かった。