第7章 【第五講 前半】文化祭は何かとトラブルになるけどそれも又青春
高校三年生の秋。
○○は初めての行事を迎えている。
高校生活、最初で最後の文化祭。
賑わう校内に目を配りながら歩く。
右腕には『風紀委員』の腕章。
今日も今日とて、○○は風紀委員の仕事に勤しんでいる。
「○○殿、よい天気になってよかったな」
今日も今日とて、うっとうしいロン毛に付きまとわれていた。
「仕事だから一緒に回れないって言ったよね。付きまとわないで」
○○は風紀委員の腕章を指し示す。
文化祭を一緒に回ろうと誘われ、風紀委員の仕事があるしなくても一緒には回らないと断ったにも関わらず、桂は○○の元へと押しかけている。
「付きまとってなどいない。たまたま同じ方向に進んでいるだけだ」
「それに話しかけないで」
「話しかけてなどいない。独り言だ」
「独り言なら人の名前呼ばないでくれない? 気持ち悪いんだけど」
○○は桂を引き離そうと早足で、それでも周囲への注意は怠らないように気をつけて歩を進める。
人混みに隠れるようにしてグラウンドを進んでも、体育館の角を曲がったタイミングで逃亡を企てても、振り返ればロン毛がいる。
もう女子トイレにでも逃げ込むか。しかし、たとえ窓から脱出を謀ってもそこに桂がいそうな予感がする。
逃げの小太郎と呼ばれる男。
この世界では誰からも逃げていないが、自分が逃げる場合に置き換えれば、逃げる相手の行動を予測することは易い。
ここは頭を使ってまかねばならぬと考える○○の耳に「食い逃げだぞー!」との叫びが届いた。
○○の思考はお仕事モードに切り替えられる。
安全に文化祭を開催することが我々、風紀委員の役目。桂に気を取られている場合ではない。
○○は声が聞こえた方へと足を向けた。その後ろから長髪をなびかせた男も随行する。
人混みを抜けた先に見えたのは、お好み焼きの屋台。
屋主は頭にタオルのハチマキを巻いたグラサンの男。
クラスメイトの長谷川だった。