第1章 【第一講】人が恋に落ちる理由なんて意外と単純
坂田銀八は正門の横の木に寄りかかり、ジャンプを読んでいた。
もうじき五限目が始まるため、校庭にはもう誰の姿もない。体育の授業もないようだ。
五限目に受け持っている授業はないため、このままここでジャンプを読み耽るつもりでいる。
そろそろチャイムの音が鳴る頃だと思った時、
「あああァァァ~!!」
という、間の抜けた声が耳へと届いた。
銀八は顔を上げ、声の方、すなわち校舎へと目を向けた。
見上げた先に、落下する長髪の姿が一瞬だけ見えた。
花壇の向こう側にその姿が消えた時、キーンコーンカーンコーンとチャイムが鳴り響いた。
カツラが落ちた。いや、そっちのカツラじゃなくて。
「いや、カツラだろ。カツラが落ちても、困るのは当人だけだ。あと、目撃した知人やら何やらは困るだろーが、俺には一切関係ないよ? うん」
白昼の校舎の窓から生徒が転落。しかも自クラスの。
なんてことになったら、マスコミやら何やらがうるさいに決まっている。
銀八は見なかったことにして、再びジャンプに目を落とした。
【第二講】へ続く→