第190章 オレンジ⦅虎杖悠仁⦆
俺たちは2人で逃げ出した。
【現実】から目を背けたかっただけなのかもしれない。
どちらからともなく、手を握り合って夜中に高専を飛び出した。
高専の地から遠く離れた土地。
誰も俺たちの事を知らない地。
呪いの事なんて全て忘れて、なな と笑い合える世界(未来)を【夢】見て、フとした時に【現実】へ引き戻される。
【宿儺の器】
【宿儺を全て取り込んで死ぬ事】
ああ、どうして あの時、宿儺の指を喰ってしまったのだろうか…。
宿儺の器で無ければ高専に行く事も無く、なな に逢う事も無かっただろう。
なな を愛してしまったから【生】にしがみついてしまった…。
俺は呪いのために自分の命を差し出せるか…?
朝日が登り出した海を眺めて居ると、後ろから なな の声がした。
俺の名を呼ぶ声。
隣にある温もり。
俺の全てを包み込んでくれる態度。
なな の全てが愛おしくて泣きそうになる…。
『悠仁?? どうかしたの?』
俺の顔を覗き込み、心配そうな表情の なな 。
涙を堪え、「ちょっと寒かっただけ」と誤魔化す。
なな の温もりを忘れないように、繋いだ手を強く握りしめた。
『??』
「…幸せだな」
独り言のように呟くと、なな も『うん』と答えてくれた。
行く宛も無く高専関係者から逃げるように ぷらぷら 居場所を変える俺たち。
偶然立ち寄った町で鐘の音が響いた。
『行ってみよ』
小さな丘の上に建てられた教会でチャペルが行われていた。