第166章 おいで⦅宿儺ver⦆
静かな山の中腹に宿儺と なな は静かに暮らしていた。
近くには川が流れており、暑い時期に水浴びをするにはちょうど良かった。
ミーンミンミンミン…
セミの鳴き声が響く。
『夏ですね』
縁側に腰掛けながら、なな は独り言のように呟いた。
隣に座っていた宿儺は空を見て少し考えてから「涼みにでも行くか」と言った。
宿儺に連れてこられたのは初めて来た湖。
『すごい、こんな場所があったんですね』
流れ落ちてくる滝を見ながら木漏れ日が差す湖の周りを見渡す なな 。
「たまに(返り)血を流しに来るんだ」
『へぇ』
宿儺は上の着物を脱ぎ、近くに放るとザブザブと湖の中に入っていった。
「なな 、おいで」
自分に差し伸べられる手を掴みに行きたかったが、宿儺の腹の高さまである水位に なな は湖の中に入る事が出来なかった。
『ぅ~……』
「どうした?」
一向に湖に入らない なな に声をかけると『私、泳げないんです…』と小さな声が聞こえた。
「いつも川に入っていただろう?」
『あの川は浅いですもん…』
「じゃあ なな は1人で其処にいるか?」
意地悪く ニィ と笑う宿儺。
『…宿儺さまの意地悪………』
宿儺から視線を外し、着物を ぎゅっ と握る なな 。
『いつもそばに居たいと想っているのは私だけですか…?』
視線を落としたまま なな は聞いた。
「そんなはず無いであろう。
俺も いつもそばに居たいと想っているさ。大丈夫だから、こっちにおいで なな 」