第165章 離れていても⦅宿儺⦆
ドクンッ、と心臓が掴まれたような感覚と ともに現実世界に引き戻された。
「 ッ、ななっ…、なな……っ…………」
目を開け、視線だけを動かすと なな の手を強く握り、泣いている親の声が聞こえた。
『……だぃ じょ、ぶ だよ』
やっと声を出すことが出来、それだけ伝えると、親は安堵の表情をして また別の涙を流した。
幸い脳に後遺症はなく、退院の目処も早かった。
退院後、満月の夜。
ふと見上げただけだったのに『宿儺さま』と呟いていた。
それから満月の月を見る度、少しずつ前世の記憶が甦ってきた。
最愛のヒトの名も。
☆ ☆ ☆
『宿儺さま』
月を見ては愛おしい貴方の名を呼ぶ。
届かぬ声と知りながら。
***おわり***