第165章 離れていても⦅宿儺⦆
月を見上げる。
綺麗…、ポツリと独り言が漏れる。
いつも隣に居た温もり。
今は自分の体温のみ。
『………宿儺さま…』
何処に居るかも分からない貴方の名を呼ぶ。
『逢いたい…』
☆ ☆ ☆
1ヶ月前。
なな は交通事故に巻き込まれた。
事故の原因は車の運転手による わき見運転。
歩道を歩いていた小学生の列に車が ふらふら と近づいていくのが見えた なな はとっさに小学生たちに向かって走っていた。
『危ないッ!』
なな の声に振り返った子どもたちは悲鳴を上げながら逃げる子や状況が把握できず、その場で立ち止まってしまう子などが居た。
全員は助けられないため、一番近くの女の子をドンと押して車から遠ざけた。
その時、ガードレールを歩道に倒しながら車が なな たちの所に来た。
事故が起きた時、体中に強い痛みと血が流れる熱を感じながら頭の中に走馬灯が巡った。
しかし、それは なな の知る記憶ではなかった。
⦅ なに? コレ………
…私の知らないヒト… ⦆
視線の先には4本の腕とたくましい胸板。
眼も なぜか4つあるが、こちらを見つめる視線は優しく胸が高鳴った。
淡いピンク色の頭を 私に似た誰かの膝に乗せ瞳を閉じる そのヒト。
そのヒトの髪を愛おしそうに撫でる私に似た誰か。
とても幸せそうに見える。
ザザ…
ザザ…
鮮明に見えていた走馬灯が暗くなっていく。
「なな」
聴いたことの無い低い男性の声が脳内に響いた。