第156章 浮わついた気持ち⦅五条⦆
なな は優しいから絶対 僕から離れないと思ってた。
自分で言うのもなんだけど、僕が声をかければ その辺の女の子なんて すぐついてくる。
一夜限りの付き合いなんてザラだった。
僕としては、なな と逢えないから別の女で処理する程度、って感覚だったんだけど、なな は その度悲しそうな顔をした。
なな の気持ちが分からないわけじゃない。
もし、なな が別の男と寝たら僕、相手の男 殺しちゃうと思う。
久しぶりの なな とのデート。
手を繋ぎながら歩いていたら派手な女から声をかけられた。
「悟ぅ、久しぶり♪
その子だれ? 今日の相手?」
にやにや しながら なな を見る女。
その女の視線に固まり、僕から手を離そうとした なな の手を ぎゅっと握った。
「悪いけど、アンタの事なんて知らない。
もう関わらないで」
なな の手をグイッとひいて、女から離れる。
後ろから ギャーギャー何か叫んでいるけど無視。
なな は ずっと下を向いたまま。せっかく楽しくお出掛けだったのに、天国から地獄に突き落とされたみたいだ。
とりあえず、家に戻って なな の誤解を解かなきゃ。
家に戻るが、なな は玄関から それ以上入ろうとしない。
「なな …?」
振り返って なな に声をかければ、僕を睨むように なな は顔を上げた。
両目には涙をいっぱい溜めて、今にもこぼれ落ちてしまいそうな顔をして。
『…もぅ、ヤダ』
涙を堪えながら小さく なな がそう言った。