第147章 指針⦅虎杖悠仁⦆
いつも輪の中心にいる虎杖は、小さい頃から素直でニコニコしている事が多かった。
何も知らない人が虎杖を見れば、両親から愛情をたっぷり受けて育っている子、と思うくらいだ。
思春期。
反抗期に突入する頃、虎杖も人並みに祖父に反抗した。
隣の家から聞こえてくる虎杖の祖父の怒鳴り声。
「悠仁!
お前また喧嘩してきたのか!」
「……………」
祖父を無視し、手を洗う虎杖。
「ったく、反抗期か」
祖父は それ以上何も言わず、虎杖は縁側に腰を下ろし、空をボーッと眺めた。
『悠ちゃん』
小さな声がした方を向けば、幼馴染みの なな が自分を呼んでいた。
『そっち行ってもいい?』
「どーぞ」
敷地を囲うように背の低い塀があるため、なな は虎杖家の正門から虎杖の居る縁側にやって来た。
『またケンカして来たの?』
汚れた服を見て なな は聞いた。
「………堂々と1人を取り囲んでるの見たら殴ってた」
少しだけ背を丸めて虎杖はそう言った。
『そっか。おじぃちゃんには その事言わないの?』
「…………」
『おじぃちゃんの事嫌いになったの?』
虎杖の横顔を見ながら聞くと「違う」と聞こえた。
『おじぃちゃんは悠ちゃんの事、心配してるんだと思うよ。ちゃんと理由くらい話をした方がいいよ』
「……………」
下を見つめる虎杖に、なな は言った。
『悠ちゃんは足も速いし、いつも輪の中心に居るでしょ?』
なな は優しく続けた。