第1章 あなただけの⦅宿儺⦆
なな side
村の人からは1人にならないように言われているが、私は湖を目指した。
『??』
普段は誰も居ない湖に、小さく人影が見える。
『誰かいるの??』
独り言のように、その人の背中に話しかける。
少しずつ近づくその人影は筋肉質な体で、腕が4本あるように見える。
カサ…
草を踏みつける音に気がついた その人が振り返った。
「……何だ娘」
低い声。
整った横顔。
ボーとして居ると、その人は フン と また正面を向いてしまった。
ハッとして湖にまた近づくと「それ以上近寄るな」と制されてしまった。
『なぜ??』
そう質問すると、その人は少し間をおいて、チラリとこちらを向いて答えてくれた。
「見て分かるだろう。腕が4本もあるのだ、恐くはないのか?」
『確かに腕が4本ある人は初めて見ました。でも不思議と"恐い"とは感じないのです』
自然と答えると、その人は驚いたような表情をしたが、すぐにまた正面を向いてしまった。
『一緒に話をしませんか??』
「…物好きめ。
上がるから そこで暫し待っていろ」
『はい』
さすがに男性の裸は直視できず、その場で目を伏せる。
「良いぞ」
再び声がかかると、その人は血の付いた着物を着て湖を見るように腰を下ろしていた。
その人の隣へ腰を下ろす。
「俺の噂を知らんのか?」
『噂??』
「…知らぬのなら それで良い」
男の人と2人きりで話をするのは初めてでドキドキしてしまう。
チラリと横顔を盗み見れば眼の下にもう1つ眼があるように見える。
盗み見ていたのがバレたのか、その人は私の方を見て「不気味だろう」と冷たく言い放つ。
『……苦しいのですか??』
「…は??
俺のこのナリを見て怯えない者など見たことなどない。
なぜ お前は怯えないのだ」
『貴方が寂しそうな眼をしているから』
「…何を可笑しな事を……不愉快だ、俺は帰る」
『また お話しましょうね!』
私が そう言うと、その人は立ち上がり アッと言う間に消えてしまった。