第19章 坂田銀時《ずっと二人で月が見たい》

《ずっと二人で月が見たい》

「銀さん、お待たせ」

　万事屋の屋根を覗き込むと、彼は仰向けに寝転がっていた。
　銀時は億劫そうに身を起こす。

「誘っておいて、ずいぶん待たせるじゃねーか」

　○○は銀時の手を借りて屋根へと上がった。

「早めに月見しよう、って言ったのはお前だろ」

　今日は中秋の名月。
　金色の光がかぶき町を染めている。

「ごめん。お客さんが立て込んでて、なかなか抜け出せなくて」

　○○は銀時の横に腰を下ろした。
　手に持たれた月見団子は、本日限定で『スナックお登勢』にて振舞われている一品。

「俺ァ酒が飲めりゃ、月が出てよーが出てまいが、どうでもいいけどな」

　銀時は酒を呷り、空になった猪口にさらに酒を注ぐ。
　瓶の中の液体はずいぶんと減っている。○○を待つ間にだいぶ飲んだようだ。

「こんな綺麗な月の下で、風情の欠片もないこと言わないでよ」

　○○は団子を銀時に差し出し、銀時は○○に猪口を渡した。

「それに、来年はここから空を見ようって言ったの、銀さんじゃない」
「覚えてねーな」
「調子いいんだから」

　かぶき町を去ろうとしていた○○を銀時が引き留めたのは、昨年の中秋の名月のこと。

「ま、とりあえず」

　銀時は猪口を差し出し、○○も同じように猪口を差し出す。
　打ち合わせた陶器が奏でる美しい音色は、昨年と変わらない。