第15章 山崎退《白いお皿プレゼント》
「お帰り、退君。張り込みだったんだって? お疲れ様」
お昼時、屯所に戻った俺を出迎えた笑顔に、吐き気すら覚えていた心はスッと落ち着いた。
《白いお皿プレゼント》
攘夷浪士の姉という人物の張り込みを続けて数十日、俺はあんパンを食べ続けた。
つぶあんこしあん朝あん昼あん夜あんあんあん。
あんパンと牛乳以外は口にしないのが張り込みの作法。
でもこんなに長期間あんパンだけだとあんパンまみれで頭がスパーキング。
そんな俺に、張り込み対象は肉じゃがを差し入れてくれた。
俺が向かいから見ていると、いつから気づいていたのかわからない。
俺は肉じゃがを食らった。気がついたら病院にいた。毒を盛られたのだ。
なにくそとばかりに山崎春のパン祭り。
任務を終えた俺は、二ヶ月ぶりに屯所へ戻った。
迎えてくれたのは、○○さんの明るい笑顔。アンコでもたれた胃も癒される。
「久しぶりに来たのに、退君、いないんだもん。張り込んでる場所も、守秘義務とか言って教えてくれないし」
せっかくだから逗留を延ばして、俺が帰って来るまで待っていてくれたという。
俺は涙が出そうになるのを堪えた。
任務から帰り、○○さんが来ていたことを聞かされただけだったら、あの姉弟をアンコまみれにするだけでは俺の気は晴れなかっただろう。