第13章 高杉晋助《雪桜》
《雪桜》
「結納すっぽかすなら、先に教えてよ」
背後からの声に高杉は振り返る。
「おじさん、平謝りだったよ」
両手を袖の中へと収めた格好で、○○は歩く。
時期外れの寒気が手をかじかませる。
明け方から降り出した雨は、十時過ぎから雪へと変わった。
「おじさん達、晋助のこと朝からずっと捜してたみたい」
クスクスと、○○は笑う。
平身低頭する高杉の父親の後頭部を見ながら、○○にはその居所の見当はついていた。
「晋助がすっぽかすなら、私もすっぽかしてたのに」
高杉の隣に並び、桜の木を見上げた。
七分咲きの桜。もうじき満開となるだろう。
チラつく雪が花びらを白く染めている。
「だから教えなかったんだ」
高杉は○○と同じように桜の木を見上げた。
「お前もすっぽかしたんじゃ、意味がねェだろ」
幼なじみであり、親が決めた許嫁である○○。
○○と結婚するつもりはないと、何度言っても父親は聞く耳を持たなかった。
親から見れば蛮行ばかりを行っている息子には、早々に身を固めさせて落ち着かせることが先決だった。