第28章 土方十四郎《ハッピーバースデーの夜に》
(悪ィな、近藤さん)
テレビ画面に目を向けながら、土方は心の中で近藤に謝罪する。
近藤の婚期はやはりないようだ。
○○の気持ちを知った今、○○を譲るつもりはない。
そもそも、妙一筋の近藤は○○に好意を抱いていない。
一方の○○も、なぜか近藤と馬が合うが、そこに異性としての好意は皆無。
完全に一人相撲だというのに、土方は恋のライバルに勝った気でいる。
――子ども向けのたくさんのイベントも開催され、各地は大いに盛り上がりました。
女性アナウンサーの言葉と共に、真選組の様子が一瞬映し出された。
そして、映像は天気予報へと切り替わる。
一瞬の間の後、近藤が言葉を漏らす。
「……え、これだけ?」
あの短時間では、参加した隊士と親子連れ以外は真選組ということにも気づかないのではないか。
土方は携帯電話を取り出し、メールを送信した。
すぐに連絡来ることを察していたのか、○○からの返答は早かった。
そこには編集でだいぶ短くされてしまったことへの謝罪が書かれていた。
土方は空になった盆を持って立ち上がった。
「来年は非番にさせてもらうからな」
近藤は頬を引きつらせる。
騒がしい子ども達の相手をさせられた上、好感度アップが狙えたテレビでの放送は水泡に帰した。
通常業務は滞り、無駄な労力を使わされた。
そんな一日への不満が込められた言葉と、近藤は捉えた。
自室に戻ると、土方は再度電話を取り出した。
メールではなく、今度は通話をするために。
電話に出た○○は開口一番、大幅カットに対する謝罪をしたが、そんなことはこの際どうでもいい。
「来年は休み取っとけ」
誕生日を特別な日だとは思っていないが、来年は○○と二人で過ごしたい。
今はただ、そう思う。
(了)