第22章 高杉晋助《松下村塾のクリスマス》
「私からのクリスマスプレゼントは届いたようですね」
翌朝、○○と晋助を見て松陽は微笑んだ。
相変わらず晋助はムスッとした表情を浮かべているが、○○との距離が縮まった様子は容易に見てとれる。
晋助の変化に、銀時や小太郎は気づいていないだろう。
「松陽先生」
「どうしました? 険しい顔をして」
口をへの字に曲げた○○に見上げられ、松陽はきょとんと目を丸くする。
「先生、私に死んでほしいんですか」
「朝からなんですか、物騒なことを言って」
「夢枕に立てって言ってたじゃないですか」
「何のことです?」
昨夜のことだと言うと、松陽は得心がいきつつ、だが首を傾げた。
「おや、私、枕元って言いませんでした?」
「言ってません」
「そうでしたか。言い間違えたみたいです」
松陽は腰を屈め、○○と目線を合わせた。
「夢枕でも枕元でも、立ってもらえたようでよかったです。晋助に貴女をプレゼントしたかったものですから」
松陽は○○の頭に手を乗せた。
教え子の心に誰がいるか、見ていてわからぬ恩師ではない。
「晋助には貴女が必要なんです」
○○は真っ赤に顔を染めた。
「おや、晋助と何かありましたか? 私が期待した以上の何かが」
「何もありません!」
おたおたと、○○は松陽の前から立ち去った。
○○の後ろ姿を見送ると、松陽は相変わらず部屋の隅で瞑想をしている教え子に目を向けた。
「小太郎には残念なことですが」
昨夜小太郎がここに泊まると言い出したのは、銀時と一つ屋根の下で夜を過ごさせることを阻止するためだと気づいていた。
さらに晋助も言い訳をして泊まると言っていたのも、同様の理由だと気づいている。
○○が銀時と小太郎と夜を明かすなど、黙って見過ごしてはいられない。
「あの二人は相思相愛ですから、気の毒ですが仕方のないことです」
持ち前の鈍感力を発揮して、○○と晋助のことには長らく気づかずにいてほしいと松陽は願う。
(了)