第20章 坂本辰馬《出逢いも残留も偶然じゃなくて必然》
「私、誕生日でも何でもないですよ」
「そげなこと知っちゅう。もうじき、○○が快援隊に入って一年じゃき」
○○は目を丸くした。
「何じゃー、覚えちょらんかったがか?」
毎日、坂本のために必死に暮らしていたため、時間の経過など全く感じていなかった。
箱を開けると、小さな輪っかが見えた。
「指輪……?」
○○は我が目を疑う。
坂本は○○の左手を取り、薬指へと指輪を持って行く。だが、嵌める前にその手を止めた。
「いかん。勝手に進めちょった」
気持ちも聞かずに指輪などを渡せば、重い枷にも成りかねない。
「もらってくれるがか?」
「私は坂本さんに救われました。ずっと、坂本さんのために生きて行きたい」
○○は自身の左薬指に目を向けながら呟いた。
坂本が自分を必要としてくれているなどと、考えてもみなかった。
独りよがりではないかと不安で、気がかりで、ケーキを作りながらもそんなことを考えていた。
「それじゃいかんぜよ。それじゃ、前と同じじゃ」
坂本は眉間に皺を寄せる。
○○は幼き頃から恩のために生きていた。
その対象が坂本に変わるだけでは意味がない。
「前に言うたち。○○の命は○○のもんじゃ。誰かのために生きなくてええんじゃ」
「私は……」
自分の幸せを考える。
考えるまでもなく、自ずと答えは見えている。
「私は、私のために坂本さんと一緒にいたい」
目の前にいる、愛しい人と生きて行くこと。何よりもそれが幸せ。
「あの時、ここに残ってくれてよかったぜよ」
そうでなければ、○○に恋をすることもなく、二度と会うこともなかっただろう。
「おまんはわしの宝物じゃ」
坂本は○○の左薬指に小さなリングを嵌めた。
(了)