第20章 坂本辰馬《出逢いも残留も偶然じゃなくて必然》
○○はキッチンに立ち、卵白を泡立てている。
今日、十一月十五日は快援隊社長である坂本の誕生日。
○○の恩人であり、誰よりも大切な人。
《出逢いも残留も偶然じゃなくて必然》
「たまげたぜよ」
荷を開けて、坂本は呆れた。
江戸の豪商から某国要人への贈り物。快援隊が荷を引き受け、送り届ける途中だった。
その大きな箱の中から、物音が聞こえた。
「わしらは人身売買に加担するつもりはないろー」
これは妙だと無断を承知で開いてみれば、女が一人、箱の中に座っていた。
女は□□○○と名乗った。
江戸の豪商の所で奉公をしていた際、某国要人に見初められ、妾としてもらわれることになった。
ただ、その星は地球人の入国を禁じていたため、荷として送られることになったという。
「お願いします。見なかったことにして、このまま送り届けて下さい」
「そげな星に行って、一生を棒に振ってもええがか?」
このまま異星へと送り届けられてしまえば、二度と故郷の地は踏めないだろう。
地球人の入国を禁じているということは、屋敷の外へ出ることも許されないはずだ。
天人しかいない中、孤独の中で一生を送る羽目になりかねない。
「旦那様に救われた命です。旦那様のお力になれるのならば、私はどうなろうと構いません」
○○は平伏する。
○○は幼き頃に両親を失い、路頭に迷っている所を江戸で商いをしている問屋の主人に救われた。
「間違っちょる」
厳然たる声に、○○は顔を上げた。
「誰に救われたち、おまんの命はおまんの命じゃ。それに、まっことおまんを救うつもりなら、こげなことで手離したらいかんぜよ」
「しかし……」
今の江戸の商人は天人相手の商売で半分以上の儲けを得ている。
自分のせいで商売に影を落とすようなことになれば、恩を仇で返すようなもの。
決して逆らえない。
「わしに任せるぜよ」
戸惑う○○に、坂本は笑顔を向けた。