第20章 ポッピンサマークラッシュ◉三馬鹿
「めぐ!先行ってていいぜ!」
そう促したのは俺だった
背中に残る柔い感触、多少の優越感がそうさせたんだと思う
ほんの少しだけ軽くなった自転車を押しながら、砂浜に駆けていく後ろ姿を見つめる
カチャリと鍵を掛けると、肩で息をしながら砂浜を凝視するショータに笑いかけた
「いっやぁー!サイクリング最高だったな!」
「白雲、お前な・・!」
「悪ィ悪ィ!めぐが可愛くてつい!」
無言の重圧を感じながら青空を見上げる、雲ひとつないそれはあまりにも気持ちがよくて
大きく伸びをすると後ろから深い溜息が聞こえた
「・・余裕こいてるとアイツに取られるぞ」
「いやいや!ひざしは大丈夫っしょ!」
腰に手を当て盛大に笑ってみても、ショータのジト目は心底呆れたように俺を捉えて離さない
ちらりと見遣った砂浜、砂に足を取られ転びかけためぐをひざしが抱き留めた
「ご、ごめんね山田くん!」
「ノーープロブレム!危ねェから手繋いでな?」
差し出された手を取ると照れ臭そうに「ありがとう」と動いた彼女の唇、ひざしがその腰に手を回した瞬間これでもかと目を見開いた俺にショータが低く呟いた
「完全に焚き付けたみたいだな」
「えっ、ちょま、ひざし!?」
ショータがめぐに気があることは前々から知っていた
何に対しても興味なさげなショータの視線が、めぐを追う時だけは熱を持つことに気づいたからだ
肌に感じた海風と背中に触れた柔い感触、これ以上ないほど幸せな状況でさえ
時折彼女の口から出る「相澤くん」の名前は、しっかりと俺を苛立たせた
「お前、山田は違うと思ってるんだな」
「・・ショータより、マシだろ」
「どうだか」
吐き捨てるように呟いて、ショータが浜辺への階段を下りていく
先ほどの余裕はどこへやら、握りしめた掌はこれ以上ないほど汗に濡れて
「マジで軽ィんだなめぐは!」
じゃれ合う二人はどう見ても恋人同士、ひざしがめぐを抱きかかえるとショータの髪が逆立った
「ひゃっ、山田くん!おろして!」
「イイじゃん、オレら超Ohhhお似合いよ?」
ちらりと俺を見遣ったひざしの視線、間違いなく挑発しているそれに立ち竦んでいる場合ではない、直様サンダルを脱いだ俺は転がるように砂浜へと走ったのだった