第20章 ポッピンサマークラッシュ◉三馬鹿

「・・別に、どっちでも」

先にそう言ったのは俺だった
彼女の選択をあえて回避したと言っても過言ではない

目の前には２台の自転車、どちらに乗るべきか決めきれない彼女を横目に俺はすたすたと山田の後ろへと歩みを進める


「ハァ！？なんでオレが相澤と2ケツなワケ！？」

ここはめぐが乗ンだよ！、馬鹿デカいその声を無視し思い切り体重をかけると前で山田の呻く声がした


「ぜってーオレより朧の方が体力あンだろォ！？」

「いやー参ったなぁ！めぐ直々のご指名かぁ！」

安全運転で参ります、態とらしい低音を発しながら畏まったお辞儀をする白雲を見て、彼女はけらけらと笑った


彼女を困らせたくない、そんな綺麗な感情じゃない
小さく舌打ちをしてしぶしぶペダルに足をかけたコイツへの、完全な嫌がらせだ


「じゃあ白雲くん、よろしくお願いします！」

ぺこりと頭を下げた彼女が、照れ臭そうにその細い腕を白雲の腰へと回して
最善では無いが最悪でも無かったはずだ、特大の溜息を漏らした山田を見遣りながらそう自身に言い聞かせた


堤防沿いの道、降り注ぐ日差しを避けるように視線を下げると白い線が灰色に流れていく


「おい、遅くなってんぞ」

「うるせェっての！なんでオレがオマエ運ばなきゃなんねェんだよ･･！」

汗の滲んだむさ苦しい背中に思わず顔を顰めると、俺たちのすぐ後ろについた白雲が楽しそうにその距離を詰めた


「めぐ！ひざし達に追いついたぞ！」

速度の落ちる俺たちと二人が並走したのはほんの一瞬、これでもかと晴れ渡る空を背景に、白い歯を見せた白雲が足に力を込める

潮に混じる甘い風がふわりと香って、
「相澤くーん！」なんて、バランスを崩さないようにと控えめに振られた指先が揺れた



「相澤ァ、オマエ朧は大丈夫だと思ってンだろ」

「・・お前よりはマシだろ」

「ああもう！俺ァ見てらんねェよ！」

苛ついたその声とともに酷い摩擦音が耳に響いて、ぴたりと動かなくなった白い線

「ギブ！運転手交代ィ！」そう吐き捨て自転車を降りた山田が俺を力任せに引き摺って、俺は溜息をつくとしぶしぶハンドルを握った


「なぁ、オマエいつから好きなんだよ」

「教えない」

俺はお前らがいつ惚れたか知ってるけどな、ペダルに足を掛け呟くと山田の大きな舌打ちが聞こえた