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《ヒロアカ短編集》角砂糖にくちびる

第16章 この話はもう終わり《前編》◉山田ひざし



暖房の余韻もそろそろ切れる頃、営業終了後の食堂の隅でコーヒーが湯気を立てる
蛍光灯が申し訳程度に二人の上を照らして、あまりのムードの無さにオレは苦笑を漏らした


「マイク先生のおかげです」

目の前のはにかんだ顔、照れ臭そうに染まった頬は1ミリだってオレの為じゃない
数えきれないほど見てきたこの表情も、聞いてきたむず痒い言葉も、すべては




「・・アイツの事なら何でも知ってっから!」

オレを味方にすりゃもう勝ち確定!、そう言ってにやりと笑ったあの瞬間を後悔するのはこれで何度目だろうか


「昔飼っていた猫の動画を見せたら、なんと相澤先生、笑ってくれたんです・・!」

嬉しそうに伏せられた目、きらりと光る瞼の煌めきが昨日とは違う色だってこともオレは気づいてンだけどなァ
毎朝君が色を選ぶ時、思い描いているのはアイツの顔なんだろう


「いつでも飲み会セッティングするぜ?」

「ええ!嬉しいです」

でも恥ずかしいなぁ、そんな風に赤く染まる君を見るたび息をするのも苦しいなんて、いい歳してオレは何をやってンだか



「もうすぐ一年だ、そろそろ行動起こすンだろ?」

探るように見つめると、慌てた彼女がいつもの否定を繰り返した


「え、いや、まだ心の準備が・・!」

もうずーーっとこの調子、散るなり実るなりしてくれりゃあ、オレも前に進めるんだけどなァ

もじもじと恥じらうその姿を見せるだけで落とせると思うぜ?、なんて
そんな風に強引に背中を押し切れないのは無論、成就しねェことを願っているからで




「・・あの、今度、お昼ご一緒してもいいですか」

ちらりと此方を伺った目元に色がつくと、それを誤魔化すように彼女はふうふうとコーヒーに息を吹きかけた


「あーそりゃムズいかもな、アイツ昼食わねェから」


驚いたように目を丸めた彼女の眉がゆっくりと下がっていく
アイツが昼食わねェの忘れちまったか?、そう尋ねると彼女は残念そうに微笑んだ


それぞれの執務室に戻るべく立ち上がると、平静を装って差し出した手


「お手をどうぞ、レディ」

「ふふ、ありがとうございます」

毎度のじゃれ合いにも拘らず照れ臭そうに笑うその顔、今だけは間違いなくオレに向けられている

この一瞬のおかげでまた来週まで頑張れるよ、そんな言葉を吐いたら君はもう会ってくれないのだろう
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