第25章 天明のひとときを、いつか〈宇髄天元〉
そして、天元が触れたであろう唇に、かれんは自身の指先をあてた。
生まれて初めての異性からの口づけ。それは本来の意味を成していなくても、かれんの全て攫っていくようだった。あの、甘く儚いぬくもりが、頭から離れない。
…あいされるって…
どんなふうなんだろう…
初めて感じる、言葉に出来ない想いばかりがかれんの心を彷徨う。それは天元を思い浮かべるたびに、かれんの胸をあまく締めつけた。
かれんは気付いていなかった。
もうその心は既に、天元に想い馳せていることを────
かれんの心に灯った、ちいさな恋の明かり。
誰かを想い、愛すること。
誰かから愛され、生きていくこと。
そして、それを守り抜いていく強さ。
生きていく中で、ひとは少しずつその意味を知っていく。
「…またどこかで、会えますように」
かれんは窓辺から見える夕陽を見つめながら、ちいさくちいさく祈りを捧げたのだった。
𓂃◌𓈒𓐍