第3章 看病一日目 可愛いは褒め言葉
「お城で働いている女性達の方がしっかりとした考えも作法も持ち合わせています。私は元々は姫ではないので、いつも学ばさせてもらってるんです。
身分は私の方が上なのでしょうけど、仮の身分ですし、私は彼女達のことを尊敬しているんです」
下働きの者達を尊敬していると言ってのけた姫に、火を熾す手を止め、つい奇異の目を向けた。
(いや、待てよ。この女は平民の出であったな。それなら理解できる)
俺の視線を受け止め、堂々と語っていた顔に不安がよぎった。
「あの……やっぱりおかしいでしょうか。
身分なんて関係ないって行動する度に、いつも皆驚いた顔をするんです」
急にしおらしくなった。
謙信「姫が仕事をしていること事態がおかしい。だがお前が平民の出であることを考慮すれば理解できる。
仕事に対する考え方も当たり前のことだ。おかしくはない」
おそらく城の者達は舞を生粋の姫だと信じ切っているから驚くのだろう。
事情を知っている者であれば舞の行動や考え方はそれほど驚くものではない。
謙信「気に病むことはない。
虎の威を借る狐になってもおかしくない身でありながら、自分の身の置き所をしっかりわきまえているのだから」
身の程を知らず、浮ついた行動をする人間ほど足をすくわれる。
その点この女は地に足をしっかりつけ、周りと接しているようだ。
あからさまにホッとした顔をして舞は立ち上がった。
草履を履いて土間に下りてきたところを見ると料理を始めるのだろう。
「ありがとうございます、謙信様。理解していただける方が居ると思うとなんだか安心しました」
謙信「馬鹿な、理解しているから信長はお前を傍に置いているのだろう」
(この女は何を言っているのだ。理解しがたい女を毎夜、呼びつけるはずがないだろうに)
「信長様…?信長様も理解して下さっているのかな。
あまりこういう話をしたことがないのでわかりませんが…」
鈍いにもほどがある。信長の性格を知っているなら簡単にわかりそうなものだ。