第55章 その手をもう一度
「そうだ!信長様。お渡ししたい物があるんです」
突然元気を取り戻した私に、信長様は頬を緩めた。
(なんだか信長様に見守られている感が凄くあるな…)
どっしり構えている信長様に見守られていると、山小屋だろうが見知らぬ土地だろうが、絶対的な安心感が湧いてくる。
(安土に居た頃もそうだったな、懐かしい)
信長「なんだ?貴様に貸した外套なら返してもらったが」
「ふふ、お待ちくださいね」
信長様の膝から降りてリュックを開けた。
沢山持ってきた荷物の中から、圧縮袋に入れた着物を手に取った。
口を開けて空気を入れるとぺちゃんこになっていた着物が元の姿を取り戻す。
袋から取りだして皺を確認した。
圧縮時間が短かったおかげで特に問題はなさそうだ。
(良かった)
一旦着物を置き、もう一つの贈り物を探す。
リュックのサイドポケットに入れておいたそれは、すぐに取り出すことができた。
「信長様、これは安土でお世話になったお礼にと私が縫ったものです」
信長様の身丈はわからなかったけど、借りた外套のサイズと、私の記憶を頼りに縫い上げたものだ。
信長様がいつも着ていた夜着を参考に、黒地に鷹の刺繍を施した日中用の着物を作った。
前面にくる片翼は飛び立ちそうに大きく広がり、背面側の片翼は閉じている。
銀灰色(ぎんかいしょく)の糸で刺繍したので安土で着ていたものより控えめな仕上がりになっている。
信長「そういえば貴様は針子だったな」
信長様は着物を受け取ると、畳まれたそれをばさりと広げた。
「信長様が安土でお召になっていた夜着が個人的にとても好きだったんです。
あの夜着をベースにして、着物に仕上げてみました」
信長「べえすとはなんだ?」
ん?と赤い目が好奇心を抱いているのがわかる。