第54章 佐助の不安
謙信は物憂げに考えに耽(ふけ)り、しばらくしてから口を開いた。
謙信「その集落と内地を繋ぐ船は?」
佐助「聞いてみましたが魚をとる舟のみで、海を渡るような大きな船はないそうです。
ただしこの辺の港まで行けば時々船がでているとか。
数年前外国船が流れ着き、修理のためしばらく停泊していたという話ですから、大きな港だと思います」
佐助が示す場所を見て謙信は難しいというように息を吐いた。
地図上で越後と安土の距離を確かめ、首を横に振った。
謙信「徒歩でこの距離を行くのは結鈴には酷だ。
その集落に馬は居ないのか?」
佐助「農耕用の馬が数頭。それを集落で共同利用しているようでした。買い取るのは難しいと思います」
謙信「北国であれば冬も早かろう。結鈴を連れて徒歩となると、移動できる距離はたかがしれるな」
佐助「ええ。しかしここでは冬は越えられません。越後よりも寒い冬がきます。
まず俺が見つけた集落まで行きましょう」
謙信は眠る三人を静かに見遣り、頷いた。