第53章 天命
光秀に気が付くと信玄の後ろに身を隠し、恥ずかしそうに顔だけ覗かせた。
結鈴「みつひでさん、お散歩どうだった?どこか痛くない?」
光秀は微笑んだ。
先程までの冷徹な表情は消え、別人のようだ。
謙信達とほとんど口をきかないが、結鈴だけは例外で話もするし、時に笑いかけたりもする。
あからさまな態度の違いに信玄はヤレヤレと苦笑を浮かべている。
光秀「折れた手首以外はもう大丈夫だ。
明日はもう少し遠くまで散歩できそうだ」
結鈴「そっかー。怪我が治って良かったね、みつひでさん」
頬を赤くしてふにゃりと笑う顔が舞と重なり、光秀は愛おしげに頭を撫でた。
信玄「遠くまで行くのはいいが、必ず帰ってこいよ。無理は禁物だ」
信玄が光秀の背を軽くぽんっと叩くと、光秀はうっと息をつめた。
結鈴が『どうしたの?』という顔で見ている。
背中の傷は新しい皮膚が形成されたばかり。
歩けるようになったが、触れると痛む。
光秀はジロリと信玄を睨んだが、それ以上は何も言わず洞窟の中に入っていった。
結鈴「信玄様、みつひでさんを苛めないでね?」
信玄「光秀が無理して動かないように、釘を刺しただけだ。苛めちゃあ、いねえよ」
小さな体をヒョイと横抱きにする。
結鈴はこの抱き方をするといつもご機嫌になる。
信玄「ところで結鈴は光秀と話す時、どうして恥ずかしそうに隠れるんだ?」
結鈴「だってみつひでさん、カッコイイんだもん。
格好良すぎてソワソワしちゃうの」
えへへ、と頬を赤くして結鈴が笑った。
結鈴「ずっと会ってみたかったんだ~」
信玄「なんでだ?」
結鈴「んー?ママのお話だとね、みつひでさんは意地悪なんだけど、とーっても優しくて思いやりがあって、かっこいい人なの。だから会ってみたいなぁって」
無邪気な答えに信玄はそうかーと笑いかけた。
信玄「それは初耳だ。いいか?パパにそのことは秘密だ。
パパがヤキモチをやいて怒るかもしれないからな」
信玄は人差し指をたてて『内緒』のポーズをとると、結鈴はうん!と頷いた。