第51章 捻じ曲がる真実
ざっと泥を蹴り上げ、光秀は何もない崖にむかって身を躍らせた。
それは一瞬の事で秀吉と三成の目が大きく見開かれた。
秀吉「っば………かっ……!」
秀吉が伸ばした手は間に合わず、光秀の身体は崖の下へ
………落ちた
三成「光秀様っ!」
秀吉「う…そ…だろ……。うそだろっ!!
光秀ぇぇぇぇぇぇ!!」
二人が崖下を見たときには光秀は頭を下に落ちていくところで、小さな点になった身体はすぐに木々の間に見えなくなった。
光秀が首に巻いていた布だけが寂しく宙に舞っている。
信じられない思いでその布を目で追い、秀吉は拳を強く握りしめた。
三成「っ、光秀様」
たまらず三成が目頭を押さえた。この高さから落ちて助かる可能性はない。
再び轟音が響き、崖下に広がる森林に雷が落ちた。
強い閃光がぴかぴかっと明滅し、景色の色を一様に変えている。
三成「秀吉様、雷がまた落ちるかもしれません。ここは危険です、っ、参りましょう!
光秀様の言葉を無下にはできませんっ」
三成はいつになく強引に秀吉の腕をとると歩き出した。
秀吉はわずかに抵抗したが、すぐに三成と並び決然と歩き出した。
秀吉「あいつが救ってくれた命だ。なんとしても生きるぞ、三成!」
三成「っ、はい!」
理不尽、無念、無力…そんな苦くてやるせない想いを胸に、二人は山を下りた。
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その後、命を永らえた秀吉と三成は『明智光秀は山で命を落とし本能寺での事情は聴けなかった』と周りに説明した。
しかし数日後には『謀反を起こした明智光秀は豊臣秀吉によって討たれた』と、またしても真実は捻じ曲がり、噂は瞬く間に日ノ本中に広まったのだった。
謀反人という証拠はない、秀吉が手をくだしたわけではない。
何度説き伏せてもその噂は正されることはなかった……