第2章 夜を忍ぶ
謙信「?」
なんだ?と言いたげに、こちらを振り返った謙信様に少し待つように伝えた。
出しっぱなしになっていたバッグに手を入れる。
(確か、京都のお寺で買ったアレがあるはず)
バッグの裏ポケットを探し、中に入っていた『それ』の紐をみつけて引っ張った。
私が京都を旅行した時に買った、交通安全のお守りだ。
「お守りです。もうすぐ夜明けです。
明るくなる前にどうか無事に佐助君のところへ戻れますように」
謙信様のように耳元に口を寄せて囁いた。
大きな手をとり、お守りを握らせた。
謙信様はピクリと動きを止めたけれど、次の瞬間には私の肩に顔を埋めて囁いた。
謙信様の髪が首にあたって、改めて距離の近さを感じてしまう。
謙信「誰にモノを言っている。俺がそんなへまをすると思うか?」
言葉を切った謙信様はくすっと笑いをこぼした。
謙信「ふっ、体が冷えているな、暖かくして寝ろ。それとも寝かしつけてやろうか?」
艶を含んだ声に、体がかっと熱くなった。
「!?」
謙信「体が熱くなったな、お前は本当にわかりやすい」
すぐに温もりが遠ざかった。
姿を追った時には部屋の中にその姿はなく、急いで天井を見上げると外れた天井板が元の場所に戻るところだった。
(も、もう!謙信様ったら、お別れの挨拶、しそこなっちゃったじゃない!)
わかりやすいって…私の気持ちに気付かれたのかな。
早鐘を打つ心臓をなんとか鎮め布団に入ると、慣れない緊張と疲労で、あっという間に眠りについた。