第35章 現代を楽しもう! ❀お寺編❀
住職「この寺の本尊を千手観音菩薩にされた理由をお聞きしても良いですか?」
出されたお茶でひと息いれたところで、ご住職が謙信様にたずねた。
(そういえば気になってたんだよね)
毘沙門天の化身ともいわれている謙信様が何故ご本尊を千手観音像にしたのか、聞きそびれていた。
謙信様はご本尊を見上げ優美な仕草で私を見た。
(?)
柔らかい視線は意味ありげだ。
多分きょとんとした顔をしているだろう私を見て、謙信様が静かに口を開いた。
謙信「舞が敵味方関係なく誰にでも手を差し伸べる様を見ていたら、分け隔てなく救済の手を伸べるという千手観音菩薩が浮かんだのだ」
「え!?わ、私がですか?」
そんなの初耳だ。
謙信様が真面目な顔で頷いた。
謙信「お前と思いを交わす前の話だ。
なんの見返りもなく佐助の看病に訪れ、敵である俺に対してもあれこれ世話をやいていた。
もし千手観音菩薩が人の姿で俗世に舞い降りたなら、きっと舞のような人間だろうと…」
愛おしげに語られた真実にあいた口が塞がらなかった。
てっきり臥せった私を案じて、の意味合いだと思っていたから、まさかそんな想いが込められていたなんて。
住職「ではこのご本尊は舞様なのですね」
二人は感慨深くご本尊を見ているけど、まさかのカミングアウトに気持ちが追いついていない。
謙信「そうだ。俺の指示通り作ったなら数多にある手のいずれかに針を持っているはずだ」
「えぇっ!?」
謙信「さっきから何をそんなに驚いている。
お前の無事を願い、お前のために建てた寺だ。そのくらいはするだろう?」
「だ、だってそんなに大層な人間じゃないです。千手観音のようだと言われても困ります」
(神様に怒られそう)
形の良い唇がすっと弧を描いた。