第27章 梅干しの蓋
(子を宿したなら、世話になった安土の者達と俺との間で揺れに揺れ…相談など誰にもしなかっただろう)
(腹の子が敵将の子であることを伏せて治療を受ける女ではない。そんなことも俺は忘れていたのか?)
膝の上に乗っていた手にぐっと力がこもった。
(まさか……それなら、俺は……)
謙信の脳裏に、頬に手をあて、傷ついた顔をしていた舞が浮かんだ。
後悔の念が強く…強く、胸を打ちのめした。
謙信は胸が張り裂けそうになり、低い声をさらに低くして呟いた。
謙信「佐助。それが事実なら俺は、たった一人で必死に生き抜き、女手ひとつで子を育ててくれていた舞に……手を上げてしまった」
(舞の話をろくに聞かず、激情に駆られてしまった)
何ということを、と謙信は両手で顔を覆った。
佐助「まだ俺の推測に過ぎません。
お子さんが二人いるので、もしかしたらご主人が居るのかもしれませんし、舞さんが仕事から帰ってきたら話を聞きましょう」
信玄「そうだな。ほら、謙信。いじけてないで天女が作ってくれた朝餉でも食べろ」
佐助「ええ、腹が減っては戦はできぬです。
夕方舞さんが帰ってきたら一戦交えなくてはいけません」
謙信「一戦…そうだな」
佐助は冷めた食事を電子レンジに入れる。
重い空気にそぐわない軽快な音楽が流れてレンジが止まり、中から出てきた料理が湯気を立てた。
それを目にして謙信と信玄の目が驚きで丸くなる。
信玄「佐助が妖術使いに見える」
佐助「詳しい原理はあとで説明します。とにかく食べてください」
佐助はラップをしておいた梅干しを冷蔵庫から出し、食卓に並べた。
謙信「……」
謙信は箸をとり、菜々子の料理を静かに食べ始めた。