第26章 不義
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(謙信目線)
人の気配を感じて眠りから覚めた。
と言っても弱った体は睡眠を欲していて瞼が重い。
目を閉じたままでいると、小さな足音が遠ざかっていった。
遠くで『皆寝てるよ』という甲高い声がした。
(子供の声…?ここはどこだ)
自分が何をしていたのか、どこにいるのか、苛立つほどに頭がまわらない。
泥沼に入り込んでいるような意識の中で稲妻が輝いた。
謙信「っ!!?」
3人でワームホールへ飛び込んだことを思い出し目を開けた。
視界に飛び込んできたのは天井からぶら下がっている四角い箱のようなものだった。
箱には白い輪が二つはめ込んであり中央から紐が垂れ下がっている。
(なんだあれは…?)
体を起こすとズキリと頭が痛んだ。
こめかみを押さえてジッとしていると徐々に痛みは和らぎ、辺りを観察することができた。
東側の障子が明るい。日差しの角度から早朝のようだ。
両脇にはおかしな着物を着た佐助と信玄が寝ていて、枕元には見たことも触ったこともない材質の器に透明な液体が入っていた。
液体の隣にガラスでできた器が伏せて置かれていた。
(これは水が入っているのか?)
揺らし確かめると、チャプンと水音がした。
ぐるりと眺めれば次々に奇妙なものが目に入ってくる。
棚に並んでいる本の背には、人が書いたものとは思えない温かみのない文字が書かれ、箪笥の上には南蛮の子供を模した人形が透明な囲いの中に鎮座している。
(あれもガラスか?この器といい、全く歪みがない…)
柱には円盤状の得体の知れないモノが掛けてあり、動かない短針、長針の他にカチ、カチ、カチと小さな音をたてて動く長針……。
(時を刻んでいるのか……?)
動力がわからず、勝手に動き続ける時計がなんとも気味が悪い。
振り返ると物入れの近くに男物の着物や羽織がかけてあった。