第24章 謙信の祈り
(謙信目線)
今宵も月が東の空から上り、今は南の空にその姿を映している。
『ワームホールが開くように月に祈ってください』
佐助にそう言われて、毎夜飽きもせず東から西へと移っていくのをただ眺めている。
俺にできるのは祈ることだけだ。
もう暑さも寒さも感じず、着ている着物や草木の様子から夏なのだろう…そのくらいにしか思わない。
時折雲がかかって月光が弱くなると、途端に夜空には数多(あまた)の星が輝きだした。
綺麗だとか星がよく見えるという感覚はとうに機能していない。
謙信「………」
花溢れる春は 想いを花びらにのせて届けましょう
美しい夜空の夏は 大好きなあなたを月に重ねるでしょう
色づく秋は あなた色に染まるでしょう
純白の冬は 恋い慕いながら涙を流すでしょう…
(ああ、声がする)
宿で身体を重ねた後、舞が湯殿で歌っていた歌だ。
病に伏した冬、お前は俺に助けを求め恋い慕い、涙しただろうか
500年後の春の花びらに……想いをのせてくれたのだろうか
(舞が助けを乞う声も、想いも…俺には届かなかった)
最近は胸が痛むことさえ無くなりつつあったのに、胸がギシギシと軋むように痛んだ。
ふと気づけば夏の美しい夜空だ。
『美しい夜空の夏は 大好きなあなたを月に重ねるでしょう』
謙信「舞…………500年後の世で月を見ているか?」
些細な接点を見つけた途端、冴え冴えとした銀色の光が目に移りこんだ。
瞬く星達のささやかな光が儚くも綺麗だと感じた。
謙信「……っ」
涙しそうな感覚に唇を噛む。
死を望んで戦っていた俺の目に、色を取り戻してくれたのは舞だった。
今も…月という小さな接点を感じただけで一瞬色が戻った。
まばたきをすればいつも通り、色を失った世界。
舞が居ない世界。
謙信「秋には俺はこの世におらぬだろう。すまぬな。
お前は俺のために生き抜いてくれただろうに、不甲斐ない最期になりそうだ」
ワームホールとやらの発生確率ははかばかしくないと聞く度に心は壊れていき、この身はもう朽ちようとしている。