第19章 謙信様の手紙
「もうすぐ着くからね…って、寝てるか。ふふ」
車の運転をしながらバックミラーで確認するとチャイルドシートに身を預けスヤスヤと眠るわが子達が居た。
私は今、あのお寺に向かっているところだ。
病院に運び込まれて検査してもらった結果、私は双子を妊娠していた。
二卵性の双子なので起きている時はそれぞれ違う顔を見せてくれるけど、寝ていると似たようなものだ。
男の子と女の子だとわかり『たつき』と『ゆり』と名付けた。
謙信様に名付けてもらいたかったな、抱っこしてもらいたいな、と胸が痛む時もあるけれど幸いなことに1人で子供達のお世話をしていると寂しさに浸る時間もなく、なんとかやり過ごせている。
出産まではひたすら謙信様を想い孤独と背中合わせに過ごしていた。
でもこの子達が産まれてきてくれたおかげで毎日が賑やかで忙しく、落ち込んでばかりいられない!と奮闘している。
愛する人がくれた宝物を守るため、私は強くいられた。
お寺のご住職の説明が気になって仕方がなくて、ネットで調べてみると間違いなく廃寺があった場所だった。
ご住職の説明通り再建者不明で、安土城下の外れという場所柄から信長様ではないかという説もあるけれど、そういった文献は残っておらず、また寺の趣向から違う人物が建てた可能性が高いと書いてあった。
水場の写真を見ると記憶とは違っていた。
開放感のある東屋であることや石造りの台から水が滾々(こんこん)と湧いているのは変わらなかったけれど、溢れた水はすぐ排水せず、近くに作られた池に流れ込むようにしてあった。
それは溜め池代わりとなり様々な用途に使われたそうだ。
寺には細部にまで手の込んだ造りが施されているのに対し、この水場に関しては庭園のような凝った造りはされておらず、池の周りをぐるりと大きな石が囲んでいる他は砂利が敷き詰められていた。
最初から有事の際、民衆が使いやすいようにという意図があったのではないかと推察されていた。
そこまで調べて私はパソコンを閉じた。
お寺へ行き、直にこの目で見ようと。