第16章 武将くまたん
最後に渡した巾着袋。
本当はあの子に似合う簪や着物を贈りたかったけれど、あからさまに好意を示すそれらの品々は選べなかった。
彼女の体を整える薬に紛らせるようにして、精いっぱいの気持ちを込めて巾着を選んだ。
(もっと気持ちを伝えていたら何か変わっただろうか)
ふとよぎった思いに胸がキュッと縮んだ。
三成「家康様…?」
隣に座っていた三成の声で我に返る。
家康「…なに」
三成「家康様が泣いているように見えたので。そんなことなかったですね、申し訳ありません」
家康「俺が泣くわけないでしょ。どうかしてる」
三成と反対側にフイと顔を向ける。
信長「のぶたんと兄弟みたい…か。ふっ」
鉄扇を優雅に揺らし、愉快そうに笑う信長の赤い瞳。
それはいつも冷たさを含んでいるのに今日は終始穏やかだ。
家康「言っておきますが、俺は信長様を兄のようだと思ったことは一度もありませんから」
文句を言う家康はツンとしていて、いつも通りだ。
秀吉「こら、家康。そう思われたなら名誉なことだろう。まったくお前は…」
ブツブツ言いながら秀吉は薄紫の包みに手を伸ばした。