第2章 夜を忍ぶ
師走(12月)に入り、町も城もなんとなく気ぜわしい季節になった。
政宗と家康が安土を去り、賑やかさが減った城で私は相変わらずの生活をしていた。
今日は女中さんの仕事を手伝って、朝からフル稼働している。
女中頭「舞様、本当にありがとうございます。
おやすみしている者が多くて、手が足りなくて困っていたんです」
廊下の雑巾がけを終え、一息ついた頃に女中頭の女性に頭を下げられた。
「私で良ければいつでもお手伝いさせてください。
それよりお休みしている人が多い、というのは何かあったんですか?
あ、もしかして早めのお正月休みですか?」
年末年始、時期をずらして長期休暇をとるのは現代でもよくあることだ。
そう思って聞くと、女中頭の女性は首を横に振った。
女中頭「いいえ。最近安土では高熱を出す流行り病が蔓延しつつあるんです。
その病になると5~7日程高熱が続くそうで、看病にあたった者にもすぐうつってしまうそうなんです。
この病にかかった場合と、家族に発症した者が居る場合、最低でも10日は城に上がるのを休むようにと信長様より命が下されました」
「そうなんですね。知らなかったです。私も城下に出るのを控えますね」
(高熱が続いて人にうつりやすいって、もしかしてインフルエンザかな)
師走に入ってから、秀吉さん達は忙しそうにしていてゆっくり会話もしていなかった。
女中さんのように定期的な連絡があるわけではないので、流行り病のことは全然知らなかった。
女中頭の女性は憂い顔で頷いた。
女中頭「そのようにされた方が良いかと。
なんでも城下では熱を下げる薬が不足し、なかなか手に入らないとか」
「そんなに流行っているんですね。城下の人達も年末で忙しいでしょうし、大変ですね…」
女中頭「ええ、本当に困ったものです。年の暮れともなれば商人たちも休み、物流が停まってしまいます。
薬草を運ぶ商人たちも同様でしょうから、ますます薬が手に入らなくなるかと。
清々しい気持ちで新年を迎えたいものですが、今年は難しいかもしれませんね」
「……」
(まさか、流行り病が蔓延している安土に来てないよね)
早ければ年末に来ると言っていた。
褪せたような金髪と二色の瞳…整った顔立ちを思い出して胸がうずいた。