第12章 看病七日目 木製の鈴
(謙信目線)
虎の刻(午前3時)を過ぎた頃
舞が眠ってからずっと寝顔を見ている。
今まで人の寝顔になど興味もなかったが、舞の寝顔はずっと見ていても飽きない。
寝言を言ったかと思えば、何か食べる夢でも見ているのか口がムニャムニャ動く。
悪戯に眉間に触れればうるさそうに手で退けようとする。
警戒も何もない呑気な寝顔が愛おしくてたまらなかった。
謙信「俺にこのような女ができるとはな……不思議な縁だ」
すうすうと寝息をたてる恋人から目が離せなくて困る。
謙信「そろそろ行かねば…」
舞の髪をひと掬いすると、芳しい香りのするそれに口づけを落とす。
謙信「必ず迎えに来る。あまり寂しがらず、笑って過ごせ…」
布団から出て舞に掛けなおしてやる。
国の話を聞いてやりたかったが、今度会う時までの楽しみにしておこう。
「んん~~、謙信様…ふふふ」
にやけた顔で枕に頬ずりしている。
(まったく何の夢を見ているのだ?)
あまりにも警戒心がない様子に呆れかえるが、俺の夢を見て笑っているのなら悪い気はしない。
謙信「会えない日は夢で会おうぞ……愛している。この命尽きるまで」
唇に軽い口づけを落とし、舞の寝顔を目に焼き付けて城をあとにした。
そうして俺と佐助は夜明け前に越後へと旅立った。