第12章 看病七日目 木製の鈴
(姫目線)
お風呂から戻り部屋に入ると、脱ぎ散らかっていた着物類は綺麗に畳まれ、清潔な襦袢が用意されていた。
(布団も綺麗になってる。は、恥ずかしい)
部屋で何をしたのか宿の人には一目瞭然だったろう。
恥ずかしくてもじもじしていると謙信様はいたっていつも通りの振舞いだ。
謙信「そのような部屋の隅で何をしている?ほら、茶でも飲んで休め」
「は、はい」
火鉢の傍に用意されていたお茶を飲む。
宿の人が用意してくれたお茶は少し時間がたっているのか、ぬるくて飲みやすかった。
お茶を飲んでホッとしていると、謙信様が畳まれていた着物から何かを取り出した。
謙信「舞、これをお前に渡しておく」
「?」
謙信様がくれたのは木製の鈴だった。黒っぽい紐がついている。
手の平で転がすとカランと乾いた音がした。
謙信「急なことで今はお前に似合う贈り物を持ち合わせていない。
これは幼少の頃に世話になった住職から貰ったものだ。お前に贈ろう」
「そんな大事な物を……」
謙信「本来ならば舞に似合う着物や簪を贈りたいところだが、いかんせん時がない。
懐剣を預けたくとも人の目に触れたら、お前の身が危うくなる。
それで我慢してくれるか?」
「贈り物なら反物を頂きましたし、我慢だなんて……嬉しいです。これをお守りがわりにして謙信様をお待ちしていますね」
このサイズならいつも持ち歩ける。
寂しくなったら鳴らして気を紛らそう。そう思って紐を持ち上げて揺らした。
カランカラン…
「ふふ、味のある良い音がしますね。
私も何か謙信様にお渡しできるものがあれば良いのですけど…」
使い古しの手ぬぐいとか、そういう物しか持っていない。
残念に思っていると、大きな手で頭を撫でられた。
謙信「俺はお前から既に貰っている」
「私からですか?」